ある障がい者が僕たちの事業所にやってきました。
仕事の仕方を教えながら一緒に働きます。月日が経つにつれて彼の顔は和むようになりました。
緊張して閉ざしていた心がひも解くように開いていきます。
彼が語る生い立ちの断面を一つ一つとつなぎ合わせて物語を読むように理解していきます。
彼がこれから地域に生きていけるように、支えるところを一緒に考えていきます。
暮らしていけるように、賃金、障がい者年金、生活保護、家族から援助などから収入を考えます。
働くことは生活費と生き甲斐の側面があれます。
一般企業に働きたいならば一緒に考えます。
また僕たちのような福祉的労働を希望するのであれば彼が生活する場に近いところを考えるでしょう。
それと同時に彼が歩まなくてはならないことは、<できない>から<できる>という道程、
あるいは<できない>から<だれかに支えてもらう>という方法もあるでしょう。
そのためには「自分への謙虚さ」と「相手に対しての感謝」という気持ちが湧いてくるのに
長い年月がかかるかもしれません。
彼は理解ある企業に就職することができました。
住む場所は単身生活のアパートとなりました。
心配がある時にはいつでも相談できるように支援者を探し顔なじみになりました。
彼との出会いから5年かかりました。明日は別れの日です。
彼はこれから自立生活をするために歩み出すのです。
出会いから別れと進むのが僕たちの仕事です。
楽しい別れです。
僕は精神保健と福祉に25年関わってきましたが、
企業から仕事を請け負って障がい者に仕事を提供するという事業所に関わったのは初めてでした。
福祉から見た企業は利益中心で障がい者を利用するという過去の体験からのイメージがありました。
しかしそれは過去の出来事ではなくいまも存続していることを実体験しました。
幸いに神奈川県中小企業家同友会の経営指針部会に参加することができ
経営理念-経営方針-経営戦略などを学ぶことができました。
僕たちは障がい者の地域支援をしています。
働く場を提供するために企業から仕事を請負なくてはなりません。
また地域で暮らせるために生活支援をしなくてはなりません、障がい者が地域で暮らすネットワークが必要となります。
障がい者の地域支援することによって僕たちの目的はなんでしようか。
難しい問いです。健常者が当たり前に生きていくこの社会。
だれもそれ以外に住むことは考えないでしょう。
しかし障がい者はそうはいきません。
施設や病院で暮らすことになります。
障がい者が地域で暮らすとは当たり前という自明性を問うということになります。
僕たちは自明性を問うことによって、新しい自分らしい生き方を発見することだと思います。